矯正歯科医の「猫の手」借ります!
- 2017年2月12日
- Leonine
サイトの手伝いを受けるにあたり
サイト設立のお話を伺ったとき、日本のママさんにもこんなに前向きで行動力のある方がいるのかとビックリした。
『日本には口唇口蓋裂児の保護者が求める情報収集法がない!』
と言われてハッとした。
考えてみれば確かにそうで、日本の口唇口蓋裂情報は閉鎖的で、患者さんによりそった情報が少ない。
あっても専門医からの一方通行の情報提供になってしまいがちかもしれない。
そう気づかされ、少し、いや深く反省した次第である。
そういうわけで大学を辞めた身軽な自分、微力ではあるがサイトのお手伝いをお受けすることにした。
猫の手ぐらいにしかならないかもしれないが、一応指もあるので猫の手よりは役にたてる気がする。
肉球がないのが残念。
口唇口蓋裂治療はライフワーク
初めのお手伝いはその指を活かしてコラムの担当となった。
今後は質問などをお受けすることになりそうなのでまずは自己紹介から。
東京都在住の矯正歯科医である。
ニューヨーク大学、トロント大学、昭和大学を経て、現在渋谷にあるオフィスで口唇口蓋裂をはじめとする先天性疾患の患者さんや、外科医との連携を必要とする外科矯正治療などを担当させて頂いている。
自分のオフィスの他、昭和大学や赤十字病院、小児医療センターなどに時々出没しては診察や教育、研究にも首をつっこんでいる。
もちろん一般矯正治療も行う。
口唇口蓋裂治療は中でも自分のライフワークのように感じている。
クラニオフェイシャルオルソドンティクスとの出会い
口唇口蓋裂治療に目覚めたきっかけは留学である。
研究留学が多い中、患者を治療できる臨床留学をする機会を得た。
昭和大学の歯科矯正学講座の大学院在学中に渡米し、ニューヨーク大学(NYU)の矯正科専攻生を経て、医学部形成外科の中にあるCraniofacial Orthodontic Fellow(クラニオフェイシャルオルソドンティク フェロー)として採用された。
今から15年以上前、ちょうどワールドトレードセンターの9.11テロを体験した数少ない日本人の一人でもある。
クラニオフェイシャルオルソドンティクスという言葉をご存じの方はおそらくいないであろう。
同じ歯科医でも知っている人は殆どいない。
矯正歯科医も知らないかもしれない。直訳すると頭蓋顎顔面外科矯正という。
クラニオフェイシャルオルソドンティストとは
クラニオフェイシャルオルソドンティクスとは、
口唇口蓋裂を初めとした頭や顔に先天疾患をおもちの患者さんの矯正治療を専門に行う分野のことである。
この分野は外科含め医科とのコンビネーションで矯正治療を行うことが多く、ある意味専門性が高い。
このクラニオフェイシャルオルソドンティクスの教育を受けた矯正医をクラニオフェイシャルオルソドンティスト(頭蓋顎顔面外科矯正医)と海外では呼ぶ。
アメリカ矯正歯科学会では、矯正専門医を取得した後のサブスペシャリティーという資格になる。
このトレーニングをうけると、耳の成長に詳しくなったり、目と目の間の平均距離を諳んじていえたりと、およそ一般矯正治療には全く関係のない知識が累々と増えていく。
そのせいか、私の後にも先にもこの資格をとったという物好きな日本人の話をついぞ耳にしたことはない。
クラニオフェイシャルオルソドンティストの生息域は欧米が中心で、普段は形成外科医などの仲間と一緒に働いている。
寂しがり屋なのだ。
チーム医療の重要性。日本の口唇口蓋裂医療はどの国にも劣らない
口唇口蓋裂含む先天性疾患の患者さんには様々な障害が現れる。
その障害を克服していくには一人の医師の力では不可能で、複数の専門医の協力のもと初めて治療が成功する。
テロの混乱のさなか、日本のような各科ごとの治療ではなくチーム医療の重要性を学んだ。
形成外科医や耳鼻科医、矯正医など専門の異なる医師が同じ職場で働くすばらしさ、矯正医が乳児矯正といった出生直後から患者の生涯を通して関わっていく診療体制に深い感銘をうけた。
こういった治療を日本でも行いたいと思った。その後カナダのトロント大学小児病院に籍を移したが、クラニオフェイシャルチームへの思いは増々強いものになった。
チーム医療の難しさは自分の分野の治療にだけ専念すれば良い、という事ではない。
自分の行う治療が他の分野にどのような影響を与えるのか、またどのような影響をうけるのか知っておく必要がある。
従って医師たちには幅広い知識が求められる。
10年以上たった現在も、日本にはクラニオフェイシャルオルソドンティストといった資格も、確立した教育システムもない。
だが体制など関係なく、よりよい治療を目指し日本の医療システムに則しながらチーム医療を志し、日々努力している医療者がいる。
私達の国の口唇口蓋裂医療はどの国にも劣るものではない。
口唇口蓋裂は個性、将来を閉じるものではない
医学の進歩はめざましく、口唇口蓋裂はもはや疾患ではなく個性である。
親御さん含めた我々の努力が、神さまを超える可能性は十分にある。
子供たちの個性が子供たちの将来を閉じてしまうものであってはならない。
このサイトが口唇口蓋裂を取り巻く人々の一助になることを願って、今日も肉球のない猫の手は貸し出し中である。
コメントを残す
コメントを投稿するにはログインしてください。