第8回Leonine Online CAMP:当時者さんInterview<むぎちゃん>前編


  • 2021年12月15日
  • LeonineAdmin

第8回Leonine Online Campにて、口唇口蓋裂の当事者であり2児のお母さんでもある【むぎちゃん】に 恋愛のこと、思春期の話、結婚や出産など、普段なかなか聞けない本音を語って頂きました。本コラムでは前編・後編に分けCampでむぎちゃんにお話いただいた内容をご紹介いたします。女性として、母として、学ぶこと、考えさせられることが多くあります。ぜひご一読ください。

――本日お話頂くのは、ご自身が口唇口蓋裂患者で、現在2児の母でもある、むぎちゃんです。むぎちゃんには、以前開催されたLeonine Online campの当事者対談の回にゲストとしてお越し頂いたことがあります。その際に、むぎちゃんのお話をもっと詳しく聞きたいという視聴者からのリクエストが多くあった為、今回は結婚や出産のことを含め、事前に視聴者の皆さんから頂いた質問にお答えして頂く形で色々とお伺いします。今日はよろしくお願いします。

 

むぎちゃん:よろしくお願いします。

 

――では、早速1つめの質問です。

『発音のリハビリは必要でしたか?』

 

むぎちゃん:言語訓練は小学校高学年の時に卒業しましたが、発音のリハビリを頑張った記憶はありません。ただ、言語訓練の成果なのか、今でもラ行など苦手な発音はあるものの、日常生活で特に支障を感じることはありません。ただ、やはりこもったような声なので、声が通りにくかったり、マスク越しに話すと聞き返されることもたまにあります。

 

――むぎちゃんは、とてもきれいな発音で聞き取りやすいので、親の立場としても希望が持てます。続いて恋愛についての質問です。

『恋愛で悩んだことや大変だったことがあれば聞かせてください。』

 

むぎちゃん:もし疾患がなかったら、自分の容姿に自信が持ててもっと恋愛を楽しめたのかなと思います。イケメンにも積極的にアプローチできたかもしれません(笑)疾患特有の顔立ちだから相手にされないというか、そもそも恋愛対象に入っていないだろうな、と感じることはありました。かと言って、恋愛に消極的だったわけではありません。普通に接していると、相手の恋愛対象に入っているか入っていないかは大体分かるので、大丈夫そうな人とは自然に仲良くなれていた気がします。好きになったら自分からデートに誘うタイプでしたし、好きになってくれる人も少数ですがいたので、疾患があるから恋愛ができないということはありませんでした。恋愛の市場で言うと顔は大事ですが、これ以上どうすることもできないし仕方のないことなので、ファッションやメイクを頑張っていました。

 

――ちなみに、むぎちゃんの初恋はいつでしたか?

 

むぎちゃん:保育園のときです(笑)

 

――答えてくださってありがとうございます(笑)続いて結婚についての質問です。

『結婚するときのことや、お子さんに遺伝の心配はなかったのかなど聞かせてください。我が家も娘なので結婚や出産への躊躇いが出てくるのではないかと思っています。パートナーへのカミングアウトや、不安など経験されていたら、その乗り越え方なども教えてほしいです。そして、親の方が重たく考えているだけかもしれないので、普通に幸せに暮らしていますよ、というようなお話だけでもありがたいです。』

 

むぎちゃん:パートナーへのカミングアウト、結婚する時のこと、妊娠について、の大きく3つに分けて話したいと思います。

 

まず、パートナーへのカミングアウトについてですが、自分がどんなシチュエーションでカミングアウトしたのか全く覚えていなかったので、今回皆さんにお話しするにあたり、事前に主人に取材をしました。主人は、私と出会ってから「顔なんかあったんかな」という思いはあったようで、違和感は結婚するまで持っていたそうです。付き合って1年目の時に、主人の方から「ここらへん(口元)どうしたん?」と私に聞いたそうです。私は何と答えたのか覚えていませんが恐らく、くっついて生まれなかったことや手術を重ねてきたこと、子どもに遺伝の可能性があることを伝えたと思います。その時、主人は「ふーん」と聞いていたそうです。

今回、主人に「あの時私の方から口唇口蓋裂について言わなかったのはどうして?」と聞かれました。私の気持ちとしては、口唇口蓋裂であることで恋愛中に何か支障を感じることはなかったので、2人の関係性で終わる間柄であるなら特に言う必要性を感じていなかったこと、結婚となると子どもへの影響を無視できないので、結婚を意識してから初めて相手に伝えようと思っていたことを話しました。

 

続いて、結婚する時のことについてお話します。

結婚に対しては、遺伝の可能性があることに義実家がどういう反応をするかが不安の種でしたが、結局は何も聞かれることも私から説明することもなく、今まで来てしまっています。主人は、遺伝したらその時に初めて言えばいいというスタンスでした。これは主人談ですが、初めて主人の実家へ挨拶に行った日、主人が義母に「彼女の鼻とかに違和感なかった?」と聞くと、義母は「違和感はあったけど、どうしたん?」と答えたそうです。主人が「生まれた時に色々あったみたい」と伝えたところ、義母も「そうなんか」と言っただけで、それ以上聞くことはなかったようです。その後、子どもに遺伝することもなかった為、この話に関してはそれきりになってしまいました。

今回、主人にも結婚する時の心境を聞いてみたところ、私の両親に初めて挨拶した時、家庭環境も人間性もしっかりしている人たちなので、子どもに口唇口蓋裂が現れる可能性が1/500の確率より高くて、もし遺伝したとしても、きっと味方になってくれたりサポートしてくれたりするだろうと感じ、結婚を決心できたそうです。

 

あと質問にあった、不安な部分についてですが、遺伝する可能性があることに対して義実家の反応が不安だったと先程お話しましたが、当時は結婚するというワクワク感のほうが勝っていたので、不安だからどうしようと悩んだ記憶はほとんどありません。「なるようになるわ」と思っていました。今回主人に取材をして、色々考えていたことが分かりましたが、私自身はあまり思いつめずに突っ走って結婚したような気がします。よく言われますが、結婚には勢いが大事って本当にその通りだと思います。

 

続いて妊娠についてお話します。初めに断っておきますが、あくまでも私の一意見でこれが全てではないということです。結果的に子どもに遺伝しなかったのでこう思える部分もあり、きっと遺伝していたら考え方も変わっていたと思います。これから話すことは全部本音ですので、聞いていて嫌な気分になる方がいらっしゃったら申し訳ありません。私は、自分が親にしてもらったことは、自分の子どもにもしてあげたいので、もし遺伝したら全力で治療に向き合っていくつもりでいました。今まさに、自分のお腹の中で生きようとしている命を自分で絶つ勇気はありませんでした。遺伝を理由に中絶することは、自分自身を否定することになります。それに、元々子どもが好きで子どもに関わる仕事を選んだくらいでしたので、自分の子どもは欲しかったのです。

仮に遺伝した場合も、産む「覚悟」という認識ではなく、自然に当たり前に育てていくつもりでした。ただ、やはりなるべく遺伝はしてほしくなかったので、妊娠中は妊婦がしない方が良いと言われていることは全部しませんでした。妊婦健診のエコーでは、先生に食い気味に「顔はどうですか」と聞いていました。授かった時には泣かなかったのに「口唇口蓋裂じゃないですよ」と言われた時は、診察室で号泣してしまいました。ピンと張りつめていたものがなくなった感覚というか、今まで自分が背負って生きてきたものを子どもに背負わせないで済むと心底ホッとしたような感覚になったのを覚えています。それくらい自分にとってはすごく大きなことでした。組織が欠損している私が、組織の欠損してない子どもを産めたのが今でも不思議で、きっとこの感覚は当事者ならではなのかなと思っています。子どもの顔を見て可愛いと思う反面、羨ましいと思う部分もあり、もし疾患がなかったら自分もこんな顔だったのかなと想像することもあります。

「普通に幸せに暮らしていますよ」という話に関しては、夫婦仲は良いですし、子どもも可愛いので今とても幸せです。家族4人で小躍りして笑い転げたり、子どもの動画や写真をTVに映して一緒に見たりするのが幸せな時間です。結婚、出産、マイホーム購入、という平々凡々な生活を送っています。

 

――素敵な家族写真も見せて頂き、どうもありがとうございます。

続いての質問です。

『今まさに、結婚出産の局面で口唇口蓋裂のことを悩んでおられる当事者の方にどのようなアドバイスや声掛けをしますか。』

 

むぎちゃん:新しい家庭を築いていく結婚や、遺伝子を残す出産は、どうしても口唇口蓋裂のことを無視できないので、その局面で悩んでおられる方の気持ちはすごく分かります。悩みの大小はありますが、結婚も出産もどちらも自分一人ではできないことなので、パートナーと一緒に乗り越えていくものなのかなと思っています。自分の根幹にある部分を共有できることは、夫婦としてより絆が強くなっていくことだと思うので、あまり悲観しすぎず、ありのままをパートナーに伝えていけたらいいのかなと思います。

 

――続いての質問です。

『友人や恋人に疾患のことをどう話してきましたか。また伝えた時の相手の反応など教えてください。』

 

むぎちゃん:術後にも関わりがある友人には、手術前に伝えていました。「口唇口蓋裂といって、生まれた時にここがひっついてなくて、何度も手術してきたんやけど、また今度もするねん。腫れたりするけどびっくりせんといてな」と。友人たちは「そうなんや。大変やってんな。でも、むぎはむぎに変わりないから心配いらんで。教えてくれてありがとう。」と言ってくれました。地元のファーストフード店で、あまり深刻にならずに話せた記憶があります。主人に伝えた時のことはすっかり忘れていたのに、友人の時のことは鮮明に覚えているのが不思議ですね(笑)

 

――そうですね(笑)

では次の質問です。

『私が一番心配しているのは思春期のことです。恋愛のことや揶揄われたことがあれば聞かせてください。』

 

むぎちゃん:思春期になると異性にも興味関心が出てきて、自分を良く見せたい、可愛く見られたいという思いがあったので、やはり人と違う口唇口蓋裂特有の顔立ちをしていることは、とてもコンプレックスでした。中高生の時は可愛い子と比べて「なんで自分はこんな顔なんだ」と夜な夜な泣くことも多かったです。なんか顔が変、という私に対する第一印象は誰しもが持っていたと思いますが、それを踏まえた上で距離を置かれるのか、そんなことは気にせず関わってくれるのかというところで、仲良くなれる人となれない人が自然と分かれていたように思います。仲良くなれる人は、総じて偏見を持って見ないような人が多かったように思います。

揶揄われることに関しては、小中高と通して、男子からが圧倒的に多かったです。女子から言われることは小学校低学年の時にあったくらいで、あとはありませんでした。口唇口蓋裂が原因でいじめられることはありませんでしたが、チクチク言われることがあり、それがとてもしんどかったです。具体的な例を挙げると、小学4年生の時、応援団の練習中に体の大きな6年生の男子2人に揶揄われました。下唇を突き出して言い方を真似されたり、砂をかけられたりしました。中学1年生の時は、違う小学校から来たクラスの男子に影で色々言われました。高校1年生の時は、同じクラスの男子に影で言われたり黒板に私と思われる顔を描かれたりもしました。今思えば、中1、高1と環境が大きく変わった時にそういうことが起こっていました。2年生、3年生ではそういうことはありませんでした。おかげで、ヒエラルキー上位の男子には今でも苦手意識があります。

初めて恋人ができたのは高校生の時でしたが、自分のことを女性として好きになってくれる人がいるという事実は、今まで男子に揶揄われてきた私にとっては、自信に繋がりました。コンプレックスがあることに変わりはなくても、それを可愛いと言ってくれる人もいるのだなと実感しました。

 

――環境がガラリと変わる時に揶揄われることが多かったというお話は、とても参考になります。親としても気にかけておくと良さそうですね。

 

<後編に続く>

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